2020年4月30日
新型コロナの世界的な感染拡大で急落した市場ですが、最近株価が回復しています。
これは、なぜなのでしょうか。直接のきっかけは、米連邦準備制度理事会(FRB) が4月9日に発表した、2兆3000千ドルの追加資金供給策でした。
これまでにも、大幅な緊急利下げや2兆ドルの経済対策を打ち出してきましたが、その時には、市場はそれを完全にスルーし、下げ続けました。
今回は、なぜ株式市場は追加経済対策を好感して回復したのでしょうか?
額が4.3兆ドルになったことを好感したからでしょうか。
そうではありません。
今回の追加経済対策は、内容が全く違うからです。何が違うかというと、今回は、倒産の可能性が高い会社を救済するようなプログラムが盛り込まれていました。
市場が心配していたのは(下げていた理由は)、コロナ感染の拡大で死者が増えることではなく、ロックダウンで経済活動が止まり、倒産する企業が増え、失業者が増え、それによって世界の経済が打撃を受け、「景気後退」に入ることでした。
その心配のタネが、今回取り除かれたことから、市場は「安心」してお金を株式市場に戻した、ということになります。
では、倒産の可能性が高い会社を救済するようなプログラムとは、どのようなものなのでしょうか。
FRBは、倒産する確率が高い企業の社債を購入すると発表しました。
それまでは、倒産する確率が高い企業の社債は、救済措置の対象外でした。
ですが、直近の対策では、そこにまで踏み込みました。
これで、そうでなければ倒産していたであろう多くの企業が、命を繋ぐことができる、と市場は考え、それを好感しました。
市場が好感した、とは、市場参加者の多くがそれを高く評価した、という意味で使います。高く評価して株式を買う人が増え、ダウ平均株価などの指数が上昇しました。
もちろん、それだけではありません。
他にも市場が好感したプログラムがありましたが、他のものも含めて、中身の質が、モノを言いました。
では、FRBが購入を決めたのは、どれくらい倒産確率が高い企業だったのでしょうか?
まず、社債にまつわる基本事項を確認しましょう。
目次
企業には倒産リスクがあります。
企業が発行する社債は、その企業の倒産リスクによって、格付けされています。
倒産リスクは、まず倒産確率(デフォルト確率とも言う)が計算され、それによって格付け機関から付与される「格付け」で表されます。
格付けとは、倒産確率度合いで測った「ランク」と考えることができます。
AAA(トリプル・エー)から、AA(ダブル・エー)、A(シングル・エー)、BBB(トリプル・ビー)・・・Cまで分かれています。(Dはすでに債務不履行に陥っている状態です)
アルファベットが若いほど、Aの数が多いほど安全度が高くなります。
このそれぞれに「+、-」「1、2、3」などの記号を組み合わせます。
どの記号を用いるかは、格付け機関によって変わります。
格付けは、格付け機関が決めます。世界の主な格付け会社は、以下の3社です。
ムーディーズ(Moody’s)
スタンダード&プアーズ(Standard & Poors)
フィッチ・レーティング(Fitch Ratings)
これに、日本では、以下の日本の格付け会社2社が入り、5社が主なプレーヤーです。格付投資情報センター(R&I)
日本格付研究所(JCR)
企業に付与される格付けは、格付け機関によって、異なります。
BB以上を投資適格債券、それ未満を投資不適格債券と呼びます。
投資不適格債券は、またの名をハイ・イールド債、もう一つのまたの名をジャンク債と言います。
ちなみに、国債にも、ハイ・イールド債のカテゴリーに入っているものがあります。
国債だからと言って安全とは限らず、国の状況によって『投資不適格』とみなされているものがあるので、注意が必要です。
ハイ・イールド債は、その名前の通り、リターンが高い債券です。
リターンが高いということは、リスクも高いということなので、高いリターンにほだされて、ホクホクと買ってしまっては、痛い目に会うことになります。
少し前に、ソブリン債、特にグローバルソブリン債(外国債)への投資が流行り、トルコやアルゼンチンなど利回りが高い国の国債への投資がもてはやされたことがありました。
グロソブなどという略語も登場し、あまり投資に明るくない人まで、あまり中身をよくわからないまま、投資をし、その後の大暴落で虎の子の資産を失ってしまったという話も、記憶に新しいかと思います。
この時のトルコ国債への投資家の中には、債券だから必ずその利回りがもらえる、と思っていた方も多いと聞きます。
国債だからと言って、100%安全なわけではありません。
投資というのは、リターンが高ければ、仕組債などで人為的にリスクを低めない限り、リスクも高いという関係にあります。
国債投資においてもこの関係は生きており、国債=安全資産、つまりリスクゼロ、と考えると、すでに皆さんご存知の通り、火傷をします。
社債市場においても、この原理は同じです。
株式市場のように、需給バランスで市場価格が決まりますから、リスクが高いのなら市場参加者が高い利回りを要求するので、リスクが高い社債には高い利回り(投資家のリターンの一部)が提示されます。
どの企業も、低い利回りで社債を発行したいわけですが、倒産確率が高い企業は、利回りを高くしないと買い手がつかないため、高くせざるを得ないのです。
倒産しそうな企業ほど(デフォルト確率が高いほど)、社債を高い利回りでしか発行できない、と言うことになります。
なので、そのようなリスクの高い社債は、投資不適格社債と呼ばれ、区別がされています。
投資信託で、ハイ・イールド債ファンド、などと名前が付いているファンドは、投資不適格債券(社債だけでなく国債も含む)に投資をするファンドです。
個人投資家の私たちも、ハイ・イールド債ファンドへの投資を通じて、投資不適格債券を買うことができます。
ですが、高いリターンに惹かれて、その他の要件(主にはリスクと分散)を考慮せずに購入してしまうと、上述のソブリン債(国債)と同じように、火傷をする原因になります。
2017年にソフトバンクの社債が売り出された際には、以下のような説明がネットや週刊誌などでもてはやされていました。
”ソフトバンクが今回発行する個人向け社債は、利率が年2.03%で、7年満期で100万円から購入できる商品設計。100万円分購入すれば、毎年約2%の金利収入=2万円が入ってくるうえ、満期までにソフトバンクがデフォルト(債務不履行)にならない限り、7年後の2024年には元本の100万円がそっくりそのまま返ってくる。
「銀行預金と比べてかなりの高金利なうえ、他社が発行する個人向け社債の金利が1%前後であることを考えれば、この高金利は嬉しい。
日本政府や日本銀行が2%のインフレを目指している中にあっては、この商品を保有していればインフレヘッジの役割も果たしてくれます。普通預金にあまっているおカネがある人、この金利よりも低い商品に投資している人は、購入する価値が十分にある」”
”「そもそも、個人向け社債は株のように値動きを気にする必要がなく、預貯金よりも金利が高くてファンが多い。そのため、付き合いのある証券会社に、『個人向け社債が出たら教えて下さい』と頼んでおく富裕層も多い。”
まるで、普通預金/定期預金の代替のように書かれています。
ですが、今かなり価格を下げていますね。
最近、ネットでは、「社債は、”株のように価格が変動しないので安心と思って買ったけれど、こんなに下がるんだとびっくりしている”」という記事も出ています。
さらに、同社の社債を買っている人は、同社の株式を買っていることも多いようです。
株も債券も両方下がってしまい、かなりの打撃を受けてしまいましたね。
果たして、社債は、よく言われていた通り、普通預金/定期預金の代替投資先になるのでしょうか?
社債は、確かに、平時の値動きだけから見ると株のような変動はなく、約束された利回りに基づくクーポンが定期的に支払われます。
なので、定期預金みたい!なのに定期より利回りが良いので、社債はおすすめ! と言っている個人投資家のブログなどもあります。
ですが、これまで読んでいただいた方はもうお分かりと思いますが、先に挙げたように、元本より下がるリスクや、倒産して戻ってこない可能性もありますから、定期預金代替にはなり得ません。
倒産したら、社債の債権者(投資家)には株式よりも優先して支払われますが、倒産した会社のお金が足りなかったら、債券の持ち主にも返ってきません。
社債は、安全資産ではなく、リスク資産です。
定期預金よりむしろ、株に近い投資と同じだと思って行う必要があります。
リスク分散という観点からも、同じ会社の株と社債を買うというのは、その正当性が理論的に説明できず、理解に苦しみます ( ; ; )。
理論的に説明できない投資は、してはダメです。
センスで恒常的に増やせるようになるには、何十年という経験が必要です。
守破離と言われる通り、初心者のうちは、原理原則を守り、王道を行くことが大切です。
自らの資産を守るために、投資の勉強は独学で雑誌やネットではなく、きちんとしたプロから学ぶことが、最終的に自分の資産を減らさない行動になると思います。
今日は、金融市場が回復に向かっている背景を踏まえ、社債についてお伝えしました。
真剣に働いて得た資産、安易な情報に騙されず、賢く増やしたいですね。