2016年4月11日
先週は、為替相場で円が毎日1ドルにつき1円ずつ円高になるという大荒れ相場となりました。為替市場では、参加者は常に相場の方向性を見定めようとしています。そして、いったん方向性が見えてくると、参加者がいっせいにその方向に向かって動くため、さらに勢いが加速します。
株式市場でも最近では起こりやすくなっていますが、株式市場には、長期で株を保有する投資家やファンダメンタルズ投資家の存在が一気に一方向に動くことを抑えています。
ファンダメンタルズ投資家というのは、その「株」が上がるか下がるかを見て、「株券」を買うのではなく、「株を発行する企業」の本源的価値(本質的価値とも言います)を見極め、「企業の将来を買う」投資家のことを言います。自ずと、長期投資家になります。
そういった投資家は、機関投資家やプロのファンドマネジャーに多いのですが、最近そういった投資をする個人の方もじわり増えてきています。
ただ、「老後破綻!」などの言葉にあおられて、安易に投資を始め、上がるか下がるかにかける「短期投資家」もそれ以上に増えているため、株式市場でも短期的な上げ下げがきつくなってきています。
ですが、それはその企業の実力を表しているのではありません。つまり、企業の価値をわからない「ずぶの素人大衆」が一喜一憂して乗り込んだ船野中をどどーっ、どどーっと移動した結果、船があっちにこっちに傾いている状況にすぎないため、長期投資家は、益々それらは大無視してどっしり真ん中で構えていれば、騒がずとも船は目的地に到達するということになります。
株価は、企業の本源的価値に収れんされる
のです。
話がそれました。
為替相場で何が起こっているのか。
ことの発端は、安倍総理のコメントです。7日に、WSJ紙へのインタビューで「通貨安戦争は断固として避けなければならない」と発言、それはドル円相場が110円の壁を突破する圧力がかかっていた時だけに、円高になっても政府の介入はないんだ。と市場に解釈され、更なる円高を誘発した模様です。
では、この円高は今後どうなっていくのでしょうか。
これは、一時的なものなのでしょうか。
円は、世界的に安全通貨とみなされていて、世界で何か起きると円が買われるという構造になっています。これは、リスク回避(リスクオフ)の円買いなどと言われています。
中東で地政学リスクが高まったり中国経済が危ないとなった時に円が買われたのは、記憶に新しい所です。こういったことが背景の円高なら、一時的なはずです。
今回の急激な円高は、果たして一時的なものなのでしょうか。
日経ヴェリタスという金融経済専門誌は、今回の円高の背景には3つの要因があるとしています。
1. 米国の金融政策(為替政策)の変化
2. 日本の経常赤字が黒字に転換した
3. 海外の投資家の行動変化
米国は、12年後半頃からつい最近まで、「ドル高」容認姿勢を取っていました。米国では量的緩和が縮小に向かい、金融引き締め(金利の上昇)に向かっていた一方で、日本と欧州は、逆に金融緩和(量的緩和の拡大)に向かっていたため、金利が高くなる方の通貨が買われますから円やユーロを売ってドルを買う動きが世界で起こっていたんですね。
それが、昨年12月に7年ぶりに利上げをし経済がそれに耐えられるのかが危ぶまれ、(利上げは経済成長に冷水を浴びせる効果がありますよ)米企業の1-3月期の決算もマイナスになってしまうなど「ドル高」が企業収益を圧迫する構造が鮮明になってきたことから、米当局がドル高容認をやめた。
これが、まず一つめの要因です。
日本はずっと経常黒字だったのですが、震災以降、エネルギーの輸入などが増加して、経常赤字になっていました。それが、ここへきて、原油価格の下落と「外国人観光客の爆買い」によって経常黒字になったんです。
これは、企業と同じで、単純に赤字の国の通貨は嫌われ、黒字の国の通貨は買われますから黒字になって円高に向かい易い状況にありました。
為替市場に参加する外国人投資家は「金利の先高観の強い通貨が好き」です。低金利が続くとみなされていた日本円を売って金利の先高観の強い通貨(米ドル含む)を買っていたんですね。元々そういうポジションを取っていたのですが、12年秋にアベノミクスが本格的に始まって、一層増えました。
アベノミクスが唱える「量的緩和」で金利が上昇するタイミングが遠のいたと見たからです。
米国が14年初頭に利上げ準備に入ると「金利格差」がもっと大きくなると見て一層「円売りドル買い」が加速しました。ですが、昨年の「リスクオフの円買い」を見て、あらら? とそのポジションを手仕舞う参加者も出てきました。今年に入ってからは、よりその動きを加速させています。
株式に投資する外国人投資家も、日本株を買う際には、通貨をヘッジしていましが、それをやめました。
ヘッジとは、その国の資産は買っても通貨は買わないことを言います。日本株を買う時には、日本円を最初に買う必要がありますね。でも、円には先安観があったので、株を買うための円を買うと同時に、為替市場で円を売る反対売買をします。これを「通貨のヘッジ」と呼びます。
そのヘッジ(円を売る)をやめたんですね。逆に、流れが円高になったのを見て、国内の機関投資家が、海外資産への投資をする際に、ヘッジをするようになりました。米国株式を買う際に米ドルを買わなければなりませんが、ドル高に動くと見ていたので、ヘッジをせずにドルを買っていたのです。
高くなる通貨を買っているのであれば、問題ないですからね。
それが、ドルが安くなっている流れを見て、ヘッジ(つまりドルを売って円を買う)をするようになりました。このように、為替市場は、
ドルが上がる=>円が下がる
円が上がる=>ドルが下がる
という、どちらかしかない、
ペアでの相対価値比較の世界
なので、方向感予測もどちらかしかなく、参加者は一方向に雪崩のように向かう筋合いにある市場なのです。
その動きの背景にあるのが、単なる一時的なリスクオフではなく、こうした「構造的」な要因であるならば、この円高は一時的なもので終わらないという解釈をすることができます。
ただし、これも予測に他なりません。
今、考慮できていないことが起こったら一発でアウトです。なので、予測を元に資産戦略を立てるのは、とても難しいものがあります。
個人投資家の私たちは、情報量においても分析力においても、表面的な浅いものになりがちです。例えば、日本はこれから高齢化社会、米国は利上げに向かうので、絶対円安になるといったものです。
昨年、猫も杓子もわけ知り顔でこれを語っていました。
いやいや、変数は二つじゃありませんから。
為替の方向性を聞かれて、「そうとは限らない」と言うと、決まって、「この人、わかってるの?」という顔をされたのを思い出します。そのうち、面倒なので、「そうですね。円安ですね。」と流すようになりました(笑)。
私たち長期で安定したリターンを狙う個人投資家の投資戦略は、
どちらにも予測しない。
の上に立てるべきです。
どっちに転んでも良いように立てる必要があります。この急激な円高局面では、それを改めて、肝に銘じたいものです。