昨年末までは米中央銀行が利上げを行ったというニュースや、ECB(欧州中央銀行)も2019年には利上げに動くか、といった利上げのニュースが続きました。
しかし、今では利上げはすっかり影を潜め、新興国の利下げに続き7月には米国もついに11年ぶりの利下げを実施しました。
さらに、2019年後半には利上げに動くかもしれないと予想されていたECBも今月12日に開いた会合で金融緩和の再開およびマイナス金利のさらなる深掘りの実施を発表しました。
このように2019年に入り先進国、新興国共に利下げへと舵を切っています。「利下げ」と一言で言っても、経済に及ぼす影響は様々です。
このような経済状況の中で、世界一の経済大国を誇る米国の利下げに注目し、その目的と影響について歴史を追ってお届けします。
目次
利下げや利上げは中央銀行が行います。
中央銀行は1.物価の安定、2.金融システムの安定を存在目的としており、この目的を達成するために金利や通貨供給量を調整する金融政策を実行しています。
利下げとは具体的には、政策金利(中央銀行が一般の銀行である市中銀行にお金を貸す際の金利)を引き下げることを指し、金融緩和とも呼ばれています。
利下げが行われると市場金利が下落し、企業や個人がお金を借りやすくなると共に、設備投資や個人消費が刺激される。
そして個人消費が刺激されることで物価情報を促し、景気が回復しやすいと言われています。
利下げにより政策金利が下がると、金融機関はより低い金利で資金を調達できるため、企業や個人に資金を貸し出す際に付ける金利を引き下げることができます。
そうすると企業は運転資金や設備投資に必要な資金などを調達しやすくなり、また個人も住宅ローンをより低金利で組めるようになったりと、利下げの恩恵を受けられます。
積極的な投資により企業活動が活発化すると企業業績の伸びや、それに伴う賃金上昇、個人消費の増加と、景気の全般的な回復と拡大の効果が期待できます。
利下げはまた、自国通貨安をもたらす効果もあります。
利下げにより相対的に通貨の価値が下がるためです。自国通貨安になることで輸出が促進される効果も期待でいます。
通貨安になるとうことは、例えば1ドル=100円が、1ドル=110円になることです。
この場合、輸出先の売り上げが10万ドルでも日本円に換算した場合、1,000万円が1,100万円と100万円の為替差益を得られるのです。
これは仮に貿易赤字を抱えている国なら、通貨安になることで貿易赤字の圧縮を測れると言うこともできます。
過去30年を振り返ると、FRBは89年、95年、98年そして2008年と4度の利下げを実施しています。
未来の動きを推測するためには過去を分析する必要があります。
過去に同様の出来事があれば、未来でもそれが繰り返されると予想できるためです。
よって、過去4回利下げが行われた時の経済状況および、利下げ後の景気動向の詳細を見ていきましょう。
利下げ前はドル高・円安方向に推移していましたが、利下げ後の為替は横ばいでした。
背景には、利下げ後の米国株価の底堅さや、バブル景気に沸く日本機関投資家による外債投資などのがあり、これらがドル高を支えたと考えられています。
95年の利下げ後のドル高はG7の「ドルの秩序ある反転が望ましい」という声明を受けての動きで、98年利下げ後のドル安はロシア通貨危機によるリスク回避の影響と思われます。
95~98年の利下げは通常の景気サイクルから外れた、世界経済や市場環境に合わせた動きであり、ドル円の動きその時の状況により様々でした。
いわゆるITバブルの崩壊に伴う世界的な株安を受け、FRMは0.75%もの緊急利下げに踏み切りました。
利下げ後、ドル高・円安が進行しましたが、これは利下げによる自国通貨安効果というよりも同年3月に導入された日銀の量的緩和政策によるところが大きいと考えられています。
2007年8月、既に深刻な問題になっていたサブプライムローンサブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)により、経済に深刻な悪影響を及ぼし始めていました。
そこで起こったのがパリバショックです。
パリバショックとはフランス大手銀行BNPパリバが、「米サブプライム問題により、3つのファンドの価格の算出、募集、償還(解約)を一時的に停止する」と発表したものです。
ファンドの解約停止という異常事態が発生し、世界金融危機に至る発端となりました。
このような事態を受け、FRBは翌9月に市場予想を上回る0.5%の利下げを実施しました。
その後、08年にかけて5%もの利下げが実施されました。
そして110円~120円を推移していたドル円は、いっきに90円台まで円高ドル安となりました。
この円高ドル安効果は利下げの影響というよりも、ヘッジファンドを始めとする投機筋が低金利の円を売り、高金利通貨建て資産へ投資する円キャリートレードを大量に行っていたことが影響しています。
金融危機によりリスクが高まり、リスク回避の動きにより売られていた円が大量に買われたため、急速に円高が進行した要因の一つとなりました。
利下げはドル安を導く効果があると言われていますが、実際は必ずしもドル安になるわけではありません。
89年以降の利下げ局面を見ても、利下げと共に円安ドル高と通説と反対の動きを示した時期が複数回あります。
自国通貨安に留まらず、株価においても利下げを行ったおかげで株価下落を防げた時期もあれば、景気後退期に入り株価下落を防ぎきれなかった時期もあります。
このように株価や為替の方向性を決める要因は多数あり、政策金利の変更のみで決まることはなく、その時々の経済・市場環境次第により動き方は異なると言えます。
FRBは2019年7月に11年ぶりの利下げ行い、9月にも追加利下げを実施しました。
米中貿易摩擦や世界経済の減速で不透明感が強まる中、景気が悪化するリスクを警戒し「予防的」利下げと言われています。
予防的と言われているゆえんは、PCEデフレーターや失業率などの指標が、いずれも景気後退期を示していない中、今後の景気後退入りを見込んで予防的に景気悪化の防御策を取るため、利下げを行っているからです。
今回の利下げによる為替の影響は、7月の利下げ直後は円高ドル安に動いたものの8月後半からは円安ドル高と動いており、この度の9月の利下げを経てもその傾向は続いています。
トランプ大統領は度重なる利下げ圧力をFRBへ課しています。
今月11日には、ツイッターへの投稿で、マイナス金利政策は政府の債務費節減に貢献するなどと指摘し、大幅な利下げどころか、政策金利をマイナス圏まで引き下げるようにまで要求しました。
トランプ氏はなぜ、ここまで執拗に利下げを求めるのでしょうか。
来年に大統領選挙を控え、再選を狙っているトランプ氏にとって、景気の下振れはなんとしても防ぎ、好景気の継続を示すことで自分の政権の功績を示す必要があります。
歴代の大統領選挙の結果を見ると、現職大統領の多くが再選を果たしています。
そんな中、再選を果たせなかった大統領もおり、その要因は大きく2つ挙げられています。
ロシアゲートや政府要人の立て続けの解任・辞任トラブル、女性関連の問題など、既に多くのスキャンダルを抱えているトランプ氏にとって、景気後退入りの問題まで抱えることは大統領再選を狙う上で避けねばなりません。
そのため、景気刺激策および自国通貨安の効果を期待できる利下げをなんとしても推し進め、大統領選挙までに景気後退期入りを防ぎたいのでしょう。
ただ、トランプ氏は、景気底上げに向けマイナス金利政策を導入したECBや日銀が抱えている問題には言及しておらず、マイナス金利が想定通りに成長を促進したりインフレを押し上げたりしていない事実にも触れていません。
利下げによる一時的、もしくは見かけ上の景気刺激効果で自身の人気をつなぎ留めたいのだと思われます。
最新の世論調査によるとトランプ氏の支持率はこの1年間で最低の43%を示しました。
また、20年の大統領選でトランプ氏に確実に投票するか、投票する可能性が高いと回答した登録有権者は40%にとどまりました。
足元の人気もおぼつかない中、自身の大統領選再選に向けて、利下やマイナス金利による悪影響には目もくれず、景気回復を示すためますます利下げを強く要求し続けることでしょう。
「歴史は繰り返される」という言葉がありますが、過去の出来事を分析することで未来を予想できると言われています。
これまでの利下げの局面を見たように、「利下げ=株価上昇、自国通貨安」を必ず導くわけではありません。
また、トランプ氏はこれからも利下げを追求し続けるでしょうが、それにより米経済の好景気が維持されるとは限りません。
95~98年の利下げ局面が顕著なように、通常の景気サイクルから外れた世界経済のなりゆきによる利下げが実施されることも、今後も起こりうるでしょう。
未来の景気動向は誰にも分かりませんが、過去の景気の成り行きを分析することで未来を予想するヒントはたくさん得られます。
それらヒントを手掛かりに想定シナリオを作り、どれか一方向にかけない、全てを想定内におさめた資産運用を目指しましょう。
ONは仕事、OFFは投資 ダブルで一生稼げる私になる 人生マネジメント塾主宰、人生デザインアカデミー協会認定講師。輸出入代行・海外展開コンサル事業コマビズ代表。
「今まで培ってきて知識を活かし、人々の経済的自立を支援する」というミッションのもと、東京と大阪の2都市を中心に活動している。
趣味はマラソンと登山。お酒も好きで大衆酒場からバーまで、どこでも馴染める。