トランプ大統領による イラン司令官暗殺の背景と影響

2020年1月8日(水)

2020年1月3日、イラン・イスラム革命防衛軍の「コッズ部隊」の司令官が、米トランプ大統領の指令によりバクダード国際空港で暗殺され、これに対する報復措置として、イランは1月7日(日本時間1月8日7時)、十数発の弾道ミサイルをイラクの米軍駐留基地に向けて発射、あわや戦争かという予断を許さない状況となりました。

各国の株式市場は、1月3日これを懸念して大きく下落、ダウ工業株30種平均は233.92ドル(0.8%)安の28,634.88ドル、日経平均株価も年明け6日の大発会を451円安で閉じることとなりました。翌日には、両国トップの「戦争をするつもりはない」とのコメントを好感し日経平均は370円戻したものの、日本時間8日の7時、イランによるイラクの米国基地への弾道ミサイル発射が伝わると一時600円を超える下げとなり、午後にやや戻して371円安で1日を終えました。

投資資金は逃避先を探す動きとなり、金や米国債、円、ドル、スイスフランが買われ、ニューヨーク金先物相場は1.6%高の1オンス=1552.40ドル、米10年債利回りは3日前日比9bp(=0.09%)低下の1.79%、ドル円相場は0.4%円高の1ドル=108円11銭で終了。原油、金はその後も上昇を続け、7日にはそれぞれ1バレル65ドル、1574.30ドルを付けて終了しています。

ソレマイニって何者?

ソレイマニ氏は、1998年からイラン・イスラム革命防衛軍「コッズ部隊」の司令官だった人、つまり軍人です。軍人なのですが、コッズ部隊とは海外案件を専門とする集団で、中東におけるイランの勢力拡大に尽力したため、事実上外交官的な役割を果たしていました。

イラン・イスラム革命防衛軍「コッズ部隊」とは、正式な国軍ではなく、1979年のイスラム革命(イラン革命)を先導し1925年から続いたパフラヴィ朝を倒し国の元首・最高指導者となったホメイニ師が、それまでの国軍とは別に新しく設立した武力集団です。

ホメイニ氏は、イスラム教シーア派の指導者なので、革命防衛隊もシーア派です。中東は、国としての境界線がありますが、各国に異なる宗派が存在し「同じ宗派同士は国を超えて連携しあっています。シリアでは、イラン民兵が内戦に疲れたシリア民に、シーア派への改宗を条件に食料や日用品を配ったり、イラクが自国領域から過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討する上でも、イラン民兵が活躍しました。

イエメン、レバノンにおいても、イランの影響力は深く浸透しています。これらの活動の陣頭指揮を取っていたのが、ソレイマニ氏でした。レバノンのシーア派武装組織ヒズボラやシリアのアサド大統領、イラクのシーア派集団連携を取り、影響力を強化していきました。そのために、イラクにも頻繁に出向いていて、今回もイラクを訪問したところを、襲撃されました。

最近では、イラクやシリアで勢力を伸ばした過激派組織イスラム国(IS)やアルカイダに対抗する武装集団の援護もしていたので、イランではテロリストをやっつける「国民的英雄」とされていました。

一方、トランプ大統領は、2019年4月に革命防衛隊を「テロリスト」と認定しています。確かに、ソレマイマニ氏が率いる革命防衛隊は、米国軍人を殺傷したり米国軍事基地を爆破したり、これまで様々な、米国から見ての「悪行」を働いてきました。しかしながら、彼は軍人ですから、敵国の軍事基地や米国軍人と戦うことは任務を遂行しているだけに過ぎません。利害が対立している米国から見て「悪」というだけの話です。今回、イラン軍人を殺した自分も同じことをしています。

米国から見たら、自分たちが正義で彼らが悪となっているので、悪行への報復として、トランプ大統領だけではなく歴代の大統領も暗殺を選択肢として検討してきたと伝えられています。

自国ではテロリストを倒し中東におけるイランの影響力拡大に尽力した英雄、米国と同盟国からはテロリストと、両極端の人物とみなされていた、それがソレイマニ氏でした。

なぜ、今、彼が殺されたのか?

長年テロリストとして追いかけてきていた人物だったとしても、なぜ、今だったのでしょうか。

直接のきっかけは、年末に米国人が一人死亡したことでした。イラク国内では、数カ月前から米軍部隊が駐留する基地に対して、イランの支援を受けた組織による攻撃が増加、その手段も高度化していました。12月27日には、イラク軍基地を狙って30発以上のロケット弾が発射され、米国の民間請負業者1人が死亡し、米軍・イラク軍の軍人4人が負傷、それに対する報復措置をトランプ大統領が国内で協議し、最初は施設空爆を選択したものの、31日に大使館が襲撃されたとの報告が入り、暗殺という選択肢に至ったようです。

https://jp.reuters.com/article/iraq-security-soleimani-idJPKBN1Z5111

その選択肢を選んだと聞いて、選択肢を差し出した国防省が驚いたということも伝えられており、『今』暗殺するという選択は、少なくとも、周到に準備したものではなかったとの見方が大勢を占めています。大使館への襲撃と聞いて、トランプ大統領の頭には、外交官や海兵隊員とその家族計52人が444日間人質として拘束された1979年の「イラン・アメリカ大使館人質事件」が頭をよぎったのかもしれません。

暗殺という選択肢が選択された背景には、以下の3つが挙げられると考えます。

1) 殺害しなければ米国人のさらなる被害が出た証拠を掴んでいた。

ソレイマニ司令官は、イラク側協力者の民兵組織有力幹部たちに、イランが提供する先進的な兵器を使ってイラク駐留米軍への攻撃を強化するよう指示していたと、ロイターが証言者の話を伝えています。
https://jp.reuters.com/article/iraq-security-soleimani-idJPKBN1Z5111

イラクでは、イランの影響力拡大に反発する民衆の抗議が勢いを増しており、ソレイマニ氏は、イラク国民の怒りの矛先を米国に向けることを狙っていた、と上記の情報提供者が伝えています。

さらに、同記事は、”米情報機関は、イラク、シリア、レバノンなど複数の国で米国民を攻撃する計画の「最終段階」にソレイマニ司令官が関与していた証拠をつかんでいた” とのことで、同司令官の策動が、最終的に、トランプ大統領に暗殺を決意させたと伝えています。

2) 大統領選を見据えたプロパガンダ的側面もあった

大統領選を控えているということも、それを後押しした可能性があります。米国の大統領というのは最高司令官でもありますが、トランプ大統領は就任以来その腕を見せる機会がありませんでした。「イラン人質事件」で再選を果たせなかったカーター大統領が頭を過ぎったかもしれません。ただ、テロ組織のトップを暗殺して英雄になるつもりが、イラン国内を初め世界的な批判にあい、米国内からも批判されたことは、誤算だったろうと思います。

3) これまでの確執があった。

上記1), 2)以前に、両国の間には、もっと根深い確執がありました。その根深い確執を理解するために必至の歴史的宗教的背景を紐解いてみたいと思います。

歴史的宗教的背景

歴史的背景

遡ること70年、第二次世界大戦後のイランは、パフラヴィー王朝の元、米国をはじめとする欧米諸国からの支援を元に開発と親欧米化路線を進めていました。それは、脱イスラム化を国民に強要することになり、国民の中には反発が芽生えてきました。

そこに登場したのが、ホメイニ師です。ホメイニ師は、イスラム法を正確に伝えられる指導者が必要と解き、体制に不満を持っていた民衆の支持を集め、1979年1月に王朝を倒し、自らが最高指導者となりました。これがイラン革命です。その際、王は米国に亡命します。癌の治療のためという人道的見地から、米国は亡命を受け入れたわけですが、これがイランの革命政権そして民衆の怒りを買い、テヘランの米大使館では、政府黙認で反米デモが繰り広げられるようになりました。

デモ参加者は増え続け、1979年11月、イスラム法学生らが米国大使館に押し入り占拠、外交官や海兵隊員とその家族計52人を人質に元皇帝のイラン政府への身柄引き渡しを要求、時のカーター大統領はあらゆる手を使い救出しようと試みましたがことごとく失敗に終わり、拘束期間は444日間にも及びました。これが、「イラン・アメリカ大使館人質事件」です。

米国とイランはこの後国交を断絶、米国民の中には反イランの感情が植えつけられ、軍事的手段による人質救出作戦を行わないカーター大統領への批判も起こり、再選に影響を与えたと言われています。

この事件を通じ、両国の間には、国と国のみならず、国民と国民の間にお互いに対する強い反イラン、反米感情が根強く植えつけられました。

2000年に入ると、イランは原子爆弾を開発しているという疑惑を持たれました。IAEAが施設建設停止などを求める決議案を賛成多数で可決しましたが、イランは核開発を継続する姿勢を見せたため、国連安保理がイランへの制裁決議を可決、石油資源の輸入を主な収入源としていたイランには打撃となりました。

2015年、イランと国連安保常任理事国とドイツの6カ国が、イランが核開発を縮小するのと引き換えに対イラン制裁を緩和するという「イラン核合意」が調印されました。これは、オバマ大統領の仲介によって成し遂げられたため、オバマ大統領の大きな功績の1つとなりました。

この合意を、2018年5月8日、トランプ大統領は突然脱退したのです。イランに対する制裁を復活させ、イランに対し「最大限の圧力をかける」キャンペーンを開始しました。これに対してイランは、ホルムズ封鎖すると脅迫して対抗しました。ホルムズ海峡は、日量約1,720万バレル、世界の石油消費量の約20パーセントが輸送される海運の要衝です。

(余談ですが、ここを封鎖されて一番困るのは、米国ではなく日本です。ホルムズ海峡を通過する石油は米国の消費量の20%に過ぎませんが、日本場合は約90%がここを通過します。今回もここが影響を受けると、日本にとっても対岸の火事では済まなくなります。)

この封鎖のおかげで、イランの石油生産量は史上最低にまで落ち込みましたが、米国の同盟国であるサウジアラビアが供給を維持してこれを補ったため、原油価格はさほど影響を受けずにすみました。

トランプ大統領は、イランに対し核開発計画に関する協議を申し出ましたが、イランとの軍事衝突の可能性は除外しませんでした。イラン側は、米国は新たな交渉を開始する前に、まず核合意に復帰しなければならないと述べ、緊張が高まっていました。

2019年中も、両国の間には緊張状態が続き、上述したように、昨年暮れのロケット弾攻撃も大使館襲撃もソレイマニ氏の指揮のもとに行われた証拠を掴んだとして、今回の暗殺に至ったと考えられています。

宗教的背景

中東を理解しようと思うと必ず出てくるのが、宗教の宗派です。イスラム教徒は、大きくスンニ派とシーア派に分かれます。

スンニ派とシーア派

ムスリム(イスラム教徒)の90%がスンニ派ですが、イランとイラクではほぼ半々の割合です。ここで、スンニ派とシーア派との違いを簡単に明らかにしておきましょう。

一言で両者の違いを表すと、スンニ派は、コーランを絶対的な存在として扱う集団で、その指導者にはあまり重きをおきません。一方、シーア派は同じ経典でもそれを伝える人が大事という信念があり、指導者にこだわります。

ホメイニ氏は、コーランを正確に理解し伝える能力を持つ『イスラム法学者』が国の指導者になるべきとして王政を批判し、イスラム法学者である自らが最高指導者の座につきました。そのホメイニ氏が設立した「国を守るための武装集団」がイラン・イスラム革命防衛軍です。その部隊は複数あり、そのうちの1つが外国案件専門のコッズ部隊、そのトップがソレイマニ氏でした。ソレイマニ氏は、前述の通り、周辺国におけるシーア派改宗を主導し、支援物資も届けるなど、軍人ですが、外交官でもあったのです。

中東の勢力図と各国の思惑

イラク

イラク国会は、1月8日、米国の駐在の廃止を求める決議案を採択しました。イラクには米兵5000人程度が駐留していますが、イランのシーア派の影響力が強く、米国がイラクから撤兵すると、彼らの影響力がさらに高まることになります。イランはイラクにおける米国の存在が邪魔なので、もとより米国にイラクから去って欲しいと思っていましたが、米国が去ったらその分自国がコストをかけてイラクを防衛する必要が出てくるため、何もなく去って行かれては困ります。

そして、イラク内にも、イランのシーア派への不満がくすぶっているので、何もなくイランがイラクにおける影響力を強めると不満が高まります。

米国よ、イラクから出て行ってくれ! との世論がイラク内から上がれば、米国の後にイランがより勢力を強めても受け入れられやすく、また米国と同じように防衛費をかけることも求められなくなります。

イスラエル

イスラエルのネタニエフ大統領は、自国は核を保有しているということをうっかり口を滑らせ、慌てて訂正しました。ですが、うっかりと見せかけて、実は、米国の撤兵を見越して、わざと言及したのではないかと憶測されています。イスラエルはこれまで米国の支援を受けてきており、米国の中東からの撤兵後は自国の防衛は自ら行わなければならなくなるため、それへの布石だったとも、見られています。
https://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/netanyahu-israel-nuclear-power-weapons-iran-crisis-trump-a9272086.html

ロシア

米国の撤退後、ロシアが中東での覇権を握る動きに出ています。ロシアのプーチン大統領は、中東での緊張が高まっている最中の1月7日、シリアの首都ダマスカスを電撃訪問し、アサド大統領と会談しました。これは、中東での影響力中東での影響力を誇示する狙いがあったと見られています。

これに先がけ、プーチン大統領は、米国がシリアからの撤退を決めた2019年10月にすかさずシリアに軍を派遣し、米軍がいた基地を支配下に置いています。

また、1月7日の夜遅くにシリアからトルコのイスタンブールに飛び、ロシアの天然ガスを黒海経由でトルコと南欧へ輸送する「トルコストリーム天然ガスパイプライン」の開通式典に参加しました。

このトルコストリームとバルト海底のノルドストリームパイプラインにより、ロシアはウクライナに頼ることなくヨーロッパへの天然ガス供給を増量することが可能になります。

このように、米国の撤退後、ロシアが中東での覇権を握る動きに出ています。これは、中東における米国の存在感が薄れロシアに取って代わられたということではなく、シリアについては、「プーチンに任せる」というのが選挙公約であったので、今回はそれがまさに実現した格好となります。

トランプの思惑

そのようななか、トランプ大統領の思惑とは何なのでしょうか?

1.中東への軍事関与を減らす

トランプ大統領は、中東の軍事的関与を減らすという選挙公約を掲げて大統領になりました。今回の暗殺は、それと逆行する動きと非難されていると伝えられていますが、実際には、スムーズにその方向に動いているように見えます。

米国は世界の覇権国家として君臨してきましたが、内情は、世界一の財政赤字国です。ちなみに、世界一の財政黒字国は中国です。世界の同盟国での基地運営費、軍事費が財政を圧迫していることから、世界の覇権国家を捨て、国として強固になる、それがトランプ大統領の狙いです。

そのために、もう米国は他国のために尽力しない、お金も兵士も使わない、犠牲を払わない、その代わり仲介も介入もしない、それが軍事面における「アメリカ・ファースト」です。中東の安定は中東でやってくれということです。

ただ、そうすると、世界の安定はどうなるのでしょうか。これまで、自由と民主主義というイデオロギーを掲げ、地域紛争の解決に尽力してきたそれをやめることは容易ではなく、反発も伴います。これまでも、イラクから撤退を試みたことがありましたが、イスラム国などの脅威に米国なしで対応できず、再度イラクに兵を戻した経緯があります。シリアから撤兵した際にも、(ここでは詳細は割愛しますが)クルド人を見捨てたと国際的非難に合いました。これまで米国が守ってきた国からおいそれと完全撤兵することは難しいのです。

自分から撤退するのではなく、相手から「出て行け!」と言われることで撤退を容易にする、そこを狙っているように見受けられます。

2. 再選へのプロパガンダ?

今年秋の大統領選を睨んで、プロパガンダ的な動きをしたという見方があります。米国の大統領は、最高司令官でもありますが、トランプ大統領は戦争をしていないため、その力をまだ世界にも自国民にも示していません。プロパガンダなので、実際に戦争を始める気はさらさらなく、イランの報復力には限界があると踏んで、暗殺を決定したと伝えられています。

3. 上院での弾劾裁判の延期を狙った?

米下院がトランプ大統領に対する弾劾訴追決議案を可決しており、上院での弾劾裁判が待たれている中、国民の関心をそらすために軍事手段に打って出たという指摘があります。

当時のクリントン大統領が弾劾訴追の採決直前の1998年12月にイラクを空爆した時と状況が似ており、米ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア氏が2日夜に「イラク空爆のため弾劾投票は延期された」と掲げる当時の新聞の見出しをツイッターに掲載し、弾劾裁判を控えたトランプ氏との共通性を風刺したことから、この見方が広がりました。

ですが、タイミングが今になったのは、上述の通り、イラクの米軍基地に対する攻撃を受けてのことです。また、上院で有罪となるには2/3が有罪と認める必要があり、共和党幹部のミッチ・マコネル上院院内総務が上院の弾劾裁判でトランプ氏が解任される可能性は「ゼロ」だと言明していることなどもあり、延期する必要性がさほど認められないことから、この可能性は低いと見られます。

第3次世界大戦に発展する可能性は?

過去に中東でのイランによるものとみられる攻撃があった際には、米市民の死者がなかった場合、トランプ大統領は報復を自制してきました。それを踏まえると、イランのミサイル攻撃に対する米国の報復の規模は、米国人死傷者がどの程度出るかに左右されると見られています。

イランも、それをわかっているかのように、日本時間8日朝の攻撃では誘導ミサイルが使用され、わざと的を外すように(死傷者を出さないように)打っていたように見えたとの未確認情報があり、実際に米国人もイラク人の死傷者は出ていないと発表されています。(1月8日午後21時現在)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-01-08/Q3SFRB6JTSEA01

また、トランプ大統領は、イラクからはまだ撤収できないと言っていますが、イラクに駐留する米軍が撤退準備を進めているとする書簡が、誤ってイラク側に送付されたと米政府自らが公表しており、正式文書ではなかったにせよ、ドラフトが書かれているということは、少なくとも撤退の可能性を考慮していることが伺えます。

これらのことを総合すると、トランプ大統領は、公約通り中東における覇権国家としての役割をやめる方向に向かっており、中東での覇権は今後米国からロシアに移行していく方向にあると言えそうです。また、イラン側にしても、各国メディアが伝えている通り、規模的に米国と戦争をして勝てる状況にはなく戦争は避けたいところでもあります。

トランプ大統領も、ここから戦争に入っても得られるものより失うものの方が多く、米国とイランとの間で戦争になる、双方に主要国がついて第3次世界対戦になるというシナリオは、現段階においては、蓋然性が低いと考えられます。

(1月9日追記)
トランプ米大統領は現地時間8日夜(日本時間9日未明)の演説で、イランがイラクの米軍基地を攻撃したことの報復措置として、イランに追加の経済制裁を科すと表明しました。報復攻撃には触れず、イランとの対立激化を望まない考えも示しました。この攻撃で米国の死傷者が出なかったことに触れ、「イランが身を引いているようだ」と語りました。

イランがこれ以上の事態悪化を望んでいないとの見方も示し、それに呼応した形の報復攻撃なし、経済制裁のみとなった模様です。これによって、両国の戦争突入は回避されました。

米大統領選への影響

米国内の反応

2020年の米大統領選候補バーニー・サンダース上院議員は、2019年6月にイランとの間で緊張が高まった際、イランとの戦争は「米国、イラン、地域および世界にとって紛れもない災害になるだろう」とコメントしており、同じく民主党の2020年大統領選候補エリザベス・フォーレン上院議員も「イランとの戦争へ向けた動きを非常に憂慮している」と述べています。
Sanders Warns Trump That War With Iran Would Be a ‘Disaster’

今回も、彼女はこの数日トランプ政権が戦争に向かっていることを批判しており、「この瞬間、私の心と祈りはイラクと世界中の軍隊とその家族と共にあります。」「これはリマインダーです。米国民はイランとの戦争は望んでいません。」と語っています。これは、戦争を嫌う米国民の賛同を得るものと見られます。
https://abcnews.go.com/Politics/democratic-candidates-measured-tone-send-prayers-iran-tensions/story?id=68131593

今回の暗殺が、中東における覇権の交代を目指した計画的なものなのか、それとも空撃に怒って衝動的に起こした行動なのか、真偽のほどはわかりませんが、大統領選への影響を見ると、上述の通り、米国民の間からも民主党の最有力候補からも戦争反対の声が大きくなっていることから、現在40%の支持率しかないトランプ大統領の支持率が、今回のことでさらに低下し、今回の暗殺がトランプ大統領の再選に不利に働くことが考えられます。

今後の見通し

どんな目的のためだったとしても、大義名分があっても、人の命を殺める権利が大統領にあるのかという点については、意義を唱えられて仕方がないと考えます。

そのような声がどう影響するのかも含め、今後の展開を注視していきたいと思います。他にも、地政学的な火種はそこここに転がっており、どこかで何かが勃発すれば金融市場を大きく動かす可能性が十分にあります。

このような状況下こそ、どちらに展開しても、リターンが得られるようなしっかり本物の分散を効かせたポートフォリオを組み、相場の動きに翻弄されることなく、リスク許容度内に収まる基本配分を守っていくことが大切です。

そして、プログラム取引が市場の反応を増幅しているため、株式や為替市場の値動きが無駄に大きくなっていることにも注意が必要です。8日朝のイランによる弾道ミサイル発射のニュースは、自動的に売買するアルゴリズムを発動させ、値動きを大きくしました。

このアルゴリズムには、「イラン」や「攻撃」などのキーワードを検出するプログラムが組まれており、「イランがイラクにある米軍駐留基地をミサイル攻撃した」とのニュースが出たら自動的に反応し瞬時に売買を完了、人間には追いつけない動きで株価に影響をもたらしています。このような、ニュースに動かされる相場環境では、短期のトレーディングで収益を上げることは非常に難しい状況です。

投資で『稼ぐ』のではなく、投資で『今ある資産を増やしていく』ことを目的とする私たち個人投資家としては、今後も自然災害を含め、このような「想定外イベントリスク」を織り込んでポートフォリオを組み、長期的視点と金融リテラシーを持って潮流を掴み、自分の頭で考える洞察力と情報リテラシーを持って足元の状況を把握し、荒波を見越して運用をしていく姿勢が、2020年はますます必要になってくると考えます。

画像出所: Hossein Mersadi/Fars news agency/WANA、Newsweek


カテゴリー

資産形成デザイン戦略