株式市場が大きく反発しています。
今回の上昇、本当に「安心」していいのでしょうか?
過去を振り返れば、危機に突入している最中にも10〜15%規模のリリーフラリー( 弱気相場での一時的な回復)は数回起きてきました。
水面下で静かに進む資金の流れと、景気悪化のサインを徹底的に読み解きます。
【新シリーズ開始のご案内】
新たな連載シリーズ
「マクロインサイト 〜静かな変動を読む〜」
という新しい週刊レポートシリーズを始めます。
「ニュースを読んでも何がどうなっているのかわからない」
そういった声にお応えして、これまで2016年から9年間、毎週会員の方のみにお届けしてきた音声解説を、ブログでもお届けします。
Macroは大局、Insightは洞察という意味です。
変化の時代には、常に、変化は見えない所から始まります。
市場の動きが表面的には穏やかでも、
水面下では確実に”変化の波”が生まれています。
ニュースや多くのメディアの解説には決して現れない小さな「変化の胎動」を紐解く意味で、『マクロインサイト〜静かな変動を読む〜』と名づけました。
このシリーズでは、
✅ 表に出ない資金の流れ
✅ 景気や株価の評価のズレ
✅ 地政学リスク
などを丁寧に追いかけながら、
未来を読むヒントを探していきます。
一緒に、静かな湖面の奥に生まれている胎動を読む力を磨いていきましょう!
今週は、2025年4月第4週の動きを中心に、
「株高は本物か一時的か? 水面下の資金の流れから読み解く」
と題してお届けします。
目次
まず、簡単にマーケットの動きを整理しましょう。
・S&P500は週間で4.59%上昇、昨年10月以来の大幅高
・ダウ平均は、終値で4万ドルを突破
・日経平均も反発、終値は35,705円
・ドル円は一時139円台まで円高が進んだのち144円台へ急反発
表面的には、
「リスクオンムードの回復」
「関税戦争の緩和」
そんな印象を受けた方も多いでしょう。
ですが、その裏では、異なる力学が働いていました。
ニュースで取り上げられていた「上昇理由」は大きく2つです。
・トランプ大統領がパウエル議長の解任を否定
・ベッセント財務長官が米中関係の緩和を示唆
確かにこれらは安心感を与えた要素です。
ですが、本当にマーケットを動かしたのは──
金利の急低下と債券市場への資金流入です。
具体的には、
・米30年物の国債利回りが週初の4.98%から4.76%へ低下
・債券市場には190億ドル超という記録的資金が流入
株式市場は、実態経済の好転を織り込んでいるのではなく、
「長期金利低下」と「流動性供給」に支えられているだけ。
ここを見誤ると、次の局面を読み違えてしまいます。
では、なぜ、長期金利が低下したのでしょうか。
ここで見逃せないのが、米財務省の静かな政策シフトです。
ベッセント財務長官は、次の2つの施策に着手したと推測されます。
・短期国債依存を是正するため、長期国債(10年物、30年物)を新規発行
・オフ・ザ・ラン国債(流動性が低くなった債券)を買い戻し、市場のボラティリティを抑制
特に、1点めについては、先週30年債の入札が行われ、いい感じで30年債が買われたようです。
ということは、30年物国債に買い手がいた、ということになります。
今、米国債の保有国は中国と日本です。その2国が米国債の売却に動いているというのは、多くが知るところです。
さらに、米国への不信感は鰻登りです。G20でも、各国が米国の関税政策を非難しました。メディアでは、米国は孤立に向かっていると報じています。
そのような中、30年という長い期間のリスクを取ることは普通は考えられません。30年債の入札など、不振に終わった方が自然です。
それが、誰かが買った。
どこかの国が、米国債の超長期債(30年債)を購入したのです。
何が起こったかというと、米国が水面下で主たる債権者(中国と日本)と交渉していた。
そして、交渉のために関税を使って圧力をかけていた。
その交渉が成立したので(30年債を引き受けてくれるとなったので)、態度を軟化させた。パウエル議長に対しても、中国に対しても。
そして、日本に対しても、あわやプラザ合意の再現か?(米国が円高誘導に圧力をかけてくる)と言われた加藤・ベッセント会談においても、米国側は日本に何も求めてきませんでした。
日中が30年債の応札に応じたから、とすると、全てに説明がつきます。
米国のデフォルト危機がとりあえず危機的状態ではなくなった。
その結果を受けてのトランプ大統領の態度の軟化、さらにそれを受けての株価上昇だった。
とすると、これは単なる「国債管理」ではありません。
バイデン政権下でイエレン前財務長官が撒いた「短期債集中」という地雷原を、静かに、しかし確実に除去しようとする動きです。
イエレン前財務長官は、任期中に発行しやすい短期債で資金を集めていました。その大部分が2025年に満期になると言われています。
IO Fundの分析では、米国は2025年に9.2兆ドルの米国債を借り換える必要があるとされ、Wells Fargoのレポートには、「公的保有の米国債の半分以上(14兆ドル超)が今後3年以内に満期を迎える」と記載されています。
さらに、複数の情報源によると、2025年に満期を迎える債務の約70%が2025年前半に集中しているとされています。
特に、6月30日に満期を迎える債務は、CBOのレポートによると1,320億ドルに上り、追加で150億ドルの利子支払いが予定されていることが記されています。
もし、借換えがうまく行かなければ、米国経済はデフォルト(債務不履行)に王手がかかります。
ベッセント財務長官の2つの施策の背景、さらには、強気な関税交渉の背景にあったのは、
・2025年の特に前半にやってくる借換えリスク
・米国財政の信認剥落への深い危機感
だった、と考えることができると思います。
そして、これらの危機が30年物の入札成功(流動性確保の成功)によって、当面緩和されたことが、トランプ大統領の急な態度の軟化と株価の回復の背景にあったのです。
「トランプ大統領は、なぜだかわからないが、態度を軟化させた」
「もうディールをふっかけても拉致があかないと気づいたんだろう」
「気まぐれ大統領だ。」
そういったコメントがメディアやSNSを賑わせています。
そして、なぜだかわからないけど、ま、軟化させたんだからいっか。
と言って上がったのが、今回の株価です。
では、実際の経済はどんな状況なのでしょうか?
データを見れば一目瞭然です。
・リッチモンド連銀・製造業新規受注指数:マイナス26(27年ぶり最低)
・未販売新築住宅:リーマンショック以来の水準
・Indeed求人広告数:4年ぶり最低
・景気後退確率:60%に急上昇(80%でリセッション確定圏)
あまりメジャーな経済指標ではないですが、米国経済は地盤沈下がすでに始まっていると言えます。
これは、今に始まったことではなく、昨年の後半からすでに綻びは出始めていました。
誰も注意を向けないマイナーな指標たちだけがそれを示していました。
株価がどれだけ上がろうが、実体経済は確実に悪化しているということです。
企業業績の下方修正も増えており、企業倒産件数も増加、消費者マインドも冷え込みつつあります。
景気後退確率は、上昇しているのです。
加えて、地政学リスクはどうでしょうか。
ロシア・ウクライナ情勢については、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が、先週、ローマ法皇の葬儀で膝を付き合わせて15分の会談をしました。
双方とも「非常に良い会談だった」と談話を発表しています。
もちろん、このまま一気に停戦に向かうと考えるのは時期尚早ですが、物別れに終わった前回の会談を思えば、意味のある一歩であったことは確かです。
・ロシア・ウクライナ情勢:停戦に向けて少し進展
・米中関係:表面的な和解ムードの裏で対立は続く
・中東:イラン核問題の緊張再び
どの火種も、一歩間違えば、再び世界市場を揺るがせる可能性を秘めています。
特に、これまであまり焦点が当てられてこなかったイラン情勢に関しては、今週トランプ大統領が国家のトップと会談するという情報もあり、実は予断を許さない状況となっています。
ここで、もうひとつ重要な視点を加えておきたいと思います。
過去の弱気相場、たとえば、
・2008年リーマンショック
・2000年ドットコムバブル崩壊
などを振り返ると、弱気相場の最中に(下降トレンドの最中に)10〜15%規模のリリーフラリー(短期反発)が複数回起きています。
それらは、勢いが良かったとしても、本格的な上昇トレンドへの転換を表したわけではありませんでした。
相場では、売りポジションを持っている人たちもいるので、ある程度下落すると、買い戻しをする人たちの買いが入り、息を吹き返したように見えることがあります。
そして、それに押し目買いを待っていた人たちが乗ると、二桁台の回復を見せることのあります。
ですが、源流の問題が解決されない限り、どんなに勢いよく反発したとしても、一時的な反発に市場が楽観ムードに傾いた後、さらに深い下落に見舞われた。
これが歴史が繰り返すパターンです。
先週からの楽観ムードに乗った株高も、もしかすると、「リリーフラリーの一局面」にすぎないかもしれません。
この可能性を、常に頭に置いておくべき局面あることは、歴史が教えてくれています。
これらを踏まえ、今後最も警戒したいポイントは3つです。
1.長期金利の再上昇
2.実体経済指標(特に製造業・住宅・雇用)のさらなる悪化
3.地政学リスクの急変
表面の株高に惑わされず、これらのシグナルを冷静に見極めることが重要です。
いま、世界市場は「見せかけの安定期」を通り抜けている可能性があります。
当面の米国政府の資金繰りがセーフになったことからの一時的なリリーフ。
ですが、これで、米財政問題が完全に解決したわけではありません。
2025年前半の「借り換えリスク」が回避された模様、というだけです。
前述したように、 公的保有の米国債の半分以上(14兆ドル超)が今後3年以内に満期を迎えるということもレポートされています。
次に来る波は、「もしかしたら来る」ではなく「いつ来るか」の問題です。その時に慌てないために、今、冷静に準備をしておきましょう。