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2025年4月、トランプ前大統領が再び仕掛けた関税政策が、世界経済に新たな衝撃を与えている。
4月2日に発表された「全ての国に対する一律10%関税」は、かつての保護主義を彷彿とさせる大胆な一手。
しかしこれは単なる選挙対策や外交圧力ではなく、米国の経済構造そのものを揺るがす壮大な再編計画の一環である可能性がある。
この政策の目的は明確だ。
第一に、慢性的な貿易赤字の是正。
第二に、財政赤字とデフォルトリスクの回避。
そして第三に、米国の再工業化。1913年以前、関税によって潤っていた米国の経済構造へと時計の針を巻き戻すという、100年の歴史を逆行するような発想だ。
そして、最後に、ドル安への誘導。
関税発表直後は世界的な株価下落が続いたが、興味深いのは各国の反応だ。
日本やEU諸国を含む70カ国以上がトランプ政権に交渉の意志を示し、いくつかの国は実際にアメリカへの関税撤廃を申し出た。
これは、単なる脅しではなく“交渉のテーブルにつかせる”ための周到な戦略だったと考えられる。
注目すべきは、中国を除く全ての国に対して90日間の猶予期間が設けられたことだ。
その裏には、米国債市場の激しい動きがあった。
米国債を保有する中国、そして日本のヘッジファンドが米国債を売却したらしく、金利は急上昇。
トランプ政権は、金利上昇による財政悪化を防ぐために急遽猶予措置を発表したと見られている。
この背景には、バーゼル規制の存在も大きく関係している。
自己資本比率を一定に保つため、銀行や保険会社は評価損が拡大した資産を売却せざるを得ない状況に追い込まれる。
農林中金がアメリカ国債を10兆円規模で売却したとの米国Fox Newsの報道もあり、これが金利上昇の一因となったことは見逃せない。
加えて、中国とロシアの動きも無視できない。
中国は近年、米国債保有残高を大きく減らしており、2024年には770億ドルを売却し、保有額は過去15年で最低水準に。
ロシアもすでに米国債をほぼ完全に売却済みであり、金や人民元、エネルギー資源など現物資産への移行を進めている。
これは単なるポートフォリオ変更ではなく、ドル基軸体制への信認そのものが揺らぎつつある証拠とも言える。
トランプの最終目標は明確だ。
製造業の復活とグローバル企業の影響力低下。
国内の中小企業・地方経済の再生を見据え、関税政策は単なる貿易措置ではなく、国家再建のための経済革命と言える。
アップルやユニクロではなく、ローカルの喫茶店や工場が再び力を取り戻すことを彼は望んでいる。
この動きは、グローバル経済システム、特にDS(ディープステート)と呼ばれる既得権益層によって築かれた金融支配構造への真っ向からの挑戦とも言える。
1913年のFRB設立以降、アメリカの通貨発行権は民間に委ねられ、関税から所得税への移行が進んだ。
この構造を根本から覆そうというのが、今回の関税政策に込められた本質的な意図だ。
ここで重要な視点として浮かび上がってくるのが、トランプの経済ブレーンであるスティーブン・ミラン氏による論文『世界貿易システムの再構築のためのユーザーズガイド』(2024年11月発表)。
この論文では、ドル高によって米国製品が国際市場で競争力を失い、慢性的な貿易赤字を生んでいるという現状認識が示されている。ミラン氏の提示する戦略は次の4点:
つまり、関税政策は単なる貿易上の防衛的措置ではなく、基軸通貨・ドル体制そのものをコントロール下に置こうとする、極めて攻めの経済政策であることがわかる。
この戦略は、一部で「現代のプラザ合意」とも呼ばれている。
1985年に日本・西ドイツ・フランス・英国・アメリカの五カ国が合意し、ドル高是正を目指したプラザ合意は、日本経済に急激な円高をもたらした。
今回の一律関税政策とドル安誘導は、あの歴史的な通貨調整の再演にも見え、今後の国際協調や為替の在り方に重大な影響を与える可能性がある。
このような急激な政策変更は、市場にとっては不確実性の連続だ。
投資戦略としては、株式だけでなく債券等、負の相関を持つ異なる資産クラスへの分散が有効であることが再確認されている。
ウォーレン・バフェット氏がこの局面で現金同等の短い債券の保有比率を高め、年初来リターンがプラスとなったという事実はその証左だ。
リスク資産と安全資産のバランスをとる、ポートフォリオ・マネジメントの重要性が改めて浮き彫りになった。
また、これは、日本にとっても他人事では済まされない。
かつてプラザ合意で円高不況に直面した日本は、今回もまた米国の政策転換の“余波”を受ける形になる可能性がある。
関税ゼロ交渉の行方や、日米金利差による為替動向、そして米国債保有の見直しといった論点が、経済と外交の両面で大きなテーマとなっていくだろう。
ここで、問題は、金利の低下とドル安を同時に達成することは、至難の技だ。
通常、金利が上昇すれば、その国の通貨は買われて通貨高となる。
近年、日米金利差が為替を動かしてきたことは、記憶に新しい。
トランプ大統領は、この相反することをやろうとしている。
米国のデフォルトは回避しつつ、グローバリストの作った金融システムを壊そうという前代未聞の一大プロジェクトに挑戦しようとしているのかもしれない。
金利を下げるには債券価格を上げる必要があるが、同時にドル安を誘導するにはドルの信認を一定程度毀損するリスクも伴う。
これらの政策が矛盾なく進行するには、極めて繊細な金融操作と国際関係のバランスが必要になる。
計画の矛盾性に市場の焦点が当たった時、金融市場は再び乱高下に見舞われる可能性がある。
トランプの一連の政策は、単なる一国の経済政策を超えた“グローバルシステム”への挑戦とも言える。
再工業化、財政の再建、通貨政策の主導権奪還──そのいずれもが、かつてないレベルで世界経済に衝撃を与える可能性を秘めている。
私たち投資家・市民は、この変化の本質を見抜き、自分自身の行動と判断をどう最適化するか、を問われている。