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FOMCでの50bpsの利下げを受けて

最初の利下げで通常の2回分50bpsの利下げを行ったのはなぜか?

去る9月19日のFOMC(米連邦公開市場委員会)において、米FRB(米連邦準備制度理事会)は、50bps(0.50%)の利下げを行いました。

これは、歴史的にも稀にみる出来事で、今日は、この考察をお届けしたいと思います。

今日、24年9月21日(土)配信のポッドキャスト391回においても、同じテーマでお話をしているので、合わせて聞いてみてください。
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それでは、まいります。

経緯

8月下旬の時点で、パウエル議長は金融政策の転換について「調整の時が来た。方向性は明確だ」と、9月利下げの可能性を示唆していたことから、9月に利下げに踏み切ることは想定内となり、一時は不確実性が薄れたと思ったのも束の間、日が進むにつれて、市場の焦点は利下げ幅に集まりました。

従来であれば、利下げも利上げも25bpsずつ行っていくのが常ですが、今回は、8月の時点で、50bpsの利下げの可能性も囁かれるようになりました。8月初旬に発表された7月の雇用統計で、失業率が4.3%に悪化したことなどから米景気後退への懸念が高まったためです。それを背景に、日米株が急落したことは、記憶に新しいと思います。

ですが、その後の経済指標は悪くなく、9月初旬に発表された8月の雇用統計はまずまずの結果だったことから、大幅な利下げへの期待は後退、FOMCのブラックアウト期間(FOMCの12日前からFRB高官が金融政策に関する発言を自粛する期間)が始まる直前までは、25bpsでほぼ確定との見方が広がっていました。

それがひっくり返るきっかけを作ったのが、ブラックアウト期間中に出た、Wall Street JournalとFinancial Timesの記事です。両メディアが揃って50bpsの利下げ観測を報道、連銀総裁の一人も可能性を示唆したニュースが広がると、50bps利下げ観測がにわかに議論の中心に躍り出てきました。直前の市場の予想は、50bpsを予想する向きが60%と、25bps予想の40%を上回りました。

そして、迎えた当日。
結果は、50bpsの利下げでした。

市場の焦点は、利下げ幅発表後のパウエル議長の会見に向かいました。
パウウェル議長の会見の骨子は以下のとおりです。

パウエル議長の会見骨子

・経済活動は全体的に堅調(経済は強い)
・労働市場はコロナ禍以前に比べて逼迫していない(インフレ懸念にはなっていない)
・個人消費の成長は依然として強い(経済は強い)
・失業率は上昇したものの、依然として4.2%と低水準(インフレ懸念にはなっていない)
・インフレはピーク時の7%から2024年8月時点で推定2.2%まで大幅に緩和されている(インフレ懸念にはなっていない)

すなわち、1) 経済は強い 2) インフレは低位で安定している、この二点を強調し、これをもって、「足元ではインフレが高まる懸念はない」から50bpsの利下げを行ったとしている。

これについては、7月に25bps行うべきものだったのがやらなかったので、その分を9月に2回分やったのでは?との指摘もあったが、

「利下げが後手に回った(7月に行うべきだった)とは思っていない。あくまで今後の景気後退を見据えて前もって備えておくという意味合いで、むしろ後手に回らないようとするコミットメントの証左」と回答している。

後手に回ったのではなく、むしろ将来のために早めに行動したんだよ、という主張。

ただ、メッセージとしては、「足元の経済は強い」し、「今後の強さにも自信がある」とも言っているわけなので、将来の景気後退を見据えて、と言われても・・・???・・・
どうも、すっきりしない。

さらに、解せないのは、

・中立金利はパンデミック前よりかなり上がっている可能性がある

との一文が入っていたこと。

中立金利とは、景気を加熱させも冷やしもしない、文字通り、その影響が中立になる金利水準のこと。それがこれまでより高まったということは、何を意味するのか。

それは、二つのことを意味する。

・金融引き締め効果が認められる金利水準がこれまでより高くなった
・金融緩和効果が認められる金利水準もこれまでより高くなった

ということは、これまでより高い金利水準でないと、インフレ抑制効果も期待できないということになる。

その状況で利下げをするということは、インフレを加速させる効果がこれまでよりも大きくなったことを意味する。

今後については、

・基本的にFRBは引き締めを継続的に解除することを見込む
(今後も利下げを継続して行っていくことを示唆)
・だからと言って、今後も同じペースで続けるわけではない(今後は急がない)
・今後の政策はデータ、今後の経済見通し、リスク評価次第
・物価安定と完全雇用を維持しつつ経済の「ソフトランディング」を目指し、失業率の急上昇を避けたい

など、ふむふむ、と聞けることに加えて、

・今後も利下げに対して柔軟に対応していく

ことも強調している。

これはすなわち、50bpsでの利下げがあることへの布石とも言える。

会見の内容まとめ

まとめると、経済状況も労働市場の状態も良好なので、基本的には25bpsずつの利下げを継続しつつ、必要とあれば50bpsの余地も残す、そんなメッセージが読み取れる。

ただ、経済が堅調で中立金利が上がったのなら、なぜ、パンデミックとか金融危機とか何も大変な状況にないのにもかかわらず、50bpsもの異例の幅の利下げが必要だったのか。

そんな疑問が、パウウェル氏の会見からは、やはり見えてこない。

利下げサイクルの一回めで大幅利下げを行った過去の例

ちなみに、利下げサイクルに入る最初の利下げが50bpsだったのは、過去に3回だけ。

Jan 3, 2001: 50bps
Sept 18, 2007: 50bps
March 3, 2020: 50bps

そして、今回の
Sept 18, 2024: .5%

見てすぐわかる通り、ITバブル崩壊、金融危機直前、コロナパンデミック開始時と、どれもが喫緊に金融政策の助けを借りないと経済が立ち行かなくなる状況下で行われた。

今回は、そのような状況にはない。にもかかわらず、なぜ、50bpsなのか。
やはり、明確な答えは、見えてこない。

過去を見ると、2回目の2007年9月18日の利下げから約1年後の2008年夏に、金融危機が勃発している。利下げが開始されるとそれは景気後退に突入している合図、と言う人もいる。金融政策とは後手に回るものだから、利下げに入った時にはすでに、経済はすでに後退への道に突入しているということだ。

逆イールドが解消

ちなみに、景気後退が迫っている合図として知られる「逆イールドの解消」もすでに起こっている。逆イールドとは、長期債の利回りが短期債の利回りを下回る状態のことを言う。

本来なら、お金を投入する期間が長ければリスクも大きくなるので、利回りが高くなるはずだが、利上げ局面では、短期債の利回りの方が高くなることがある。なぜなら、短期債の方が政策金利の影響を受けやすく、長期金利は当該期間の経済成長率と期待インフレ率の方をより強く織り込むため。利上げ下で、市場参加者が今後10年の経済成長率とインフレ率が低下すると考えていると、逆イールドが形成される。

それが、解消されると言うことは、長期債は動かないままで(引き続き市場参加者が今後10年の潜在経済成長率と期待インフレ率が低下すると考えているままで)、短期債の利回りが低下した(すなわち、足元の景気は実際に悪化に転じた、またはまもなく転じると中央銀行が判断して利下げが行われたから、短期金利がそれを反映して下がり始めた)ということ。なので、逆イールドの解消は、いよいよ利下げをしなければならないほど景気が悪化したことを意味している、と市場参加者が考えているということ。

このようなことから、経験則的に、

・逆イールドの開始から18ヶ月から2年ほどで景気後退に入る
・逆イールドの解消はいよいよ景気後退に入る合図

とされている。

今回、この逆イールドの解消が起こっているので、主要経済指標が悪くなかったとしても、FRBは景気が後退に向かっていることを何らかの理由で考えていて、それで50bpsもの利下げを行ったのではないか、と景気後退を危ぶむ声が上がっている。

政府債務の高まり

また、政府債務が過去最高レベルの32兆ドルまで上昇していること(1935年の320億ドルから1000倍に)や、米ドルからの脱却(真綿で首を絞めるように米経済を締め上げる)を図っているBRICSが勢力を急拡大していることなども、米経済の先行き懸念に繋がっている。

政府債務に関しては、宇(ウクライナ)への支援や、低金利下で発行された米国債が償還され、ここ数年高金利で借り換えをしているので利払いが大きく増加しており、それが債務残高の伸びを加速させている。

今年24年の後半から27年にかけても膨大な償還(数兆ドル単位)が待っており、高金利で借り換えることになるか、借り換えが無理であれば、通貨の増発をして賄うしか手がない。ここ数年、BRICSは米国債を売却していることから、借り換えの資金繰り自体も懸念されている。(この辺は、詳しい数値を今は持っていないので、また改めて、調査し公開したいと思います。)

市場の反応

今回の利下げを受けて、実際の市場の反応はどうだったかというと、ダウ平均はFOMCの結果発表後に上昇する場面があったものの、その後は買いの勢いが続かず、不安定な動きとなり、最終的にはマイナス圏で終了。

金利は上昇して反応(価格は下落)し、為替市場ではドル高円安が進行、それを受けて日本の株価は1000ドル近く上昇した。

利下げしたのになぜ金利が上昇しているのかわからない、と言った声がSNSで流れているが、何も記載がなく「金利」と言う時には、10年物国債のことを指すことを知っておかないと、そのような質問が出てきてしまう。そして、上述したように、長期債(とは10年物国債のこと)は、政策金利の影響より、この先10年の潜在的経済成長率と期待インフレ率の影響を受ける。

その10年物利回りが上昇したと言うことは、債券が売られていると言うこと。これは、潜在的経済成長率または期待インフレ率のどちらかあるいは両方が高まったことを示唆する。

一般的に、楽観的でいつも学習せずにバブルを作ってしまう株式市場より、債券市場は冷静に状況を反映する、すなわち、債券市場の方が賢い、と見られており、この局面で、潜在的経済成長率または期待インフレ率のどちらが上昇すると考えているかと言ったら、前者の高まりは考えにくいので、インフレ率の上昇を織り込んでいると考える方が自然だろう。

あるいは、単純に、利下げと言う経済活動への援軍を受けて、投資家のリスク許容度が高まり、債券より株式を選好したと考えることもできる。であれば、足元では、債券市場の方が株式市場より楽観的な見通しを持っていることになる。

こちらは経験則的に見ても考えにくいので、やはりインフレ率の上昇を織り込んでいると考える方が自然という結論に至る。

いずれにしろ、債券市場は株式市場と一枚岩の反応は示していない。今後、どちらが正しいかは、少しずつ明らかになっていくと思われるが、どちらが正しくても(どちらに展開しても)、自分の資産を守る運用をしておくことがとても重要な局面であることには、間違いない。

他にも、米経済が景気後退に向かっていることを示唆するがスポットが当てられていない情報が沢山あるが、FRBはそれらについては言及していない。パウエル議長の会見でも、「景気後退に向かっているから、50bpsにした」とは一言も言っていない。

では、なぜ、50bpsの利下げに踏み切ったのか。

何度も言うようだが、これは、極めて異例なことだが、ここの疑問がやはり解けない。

そこで、浮上しているのが、FRBは政府に圧力をかけられたのではという疑念だ。

政府からの圧力の可能性

現バイデン政権は、良い数字と良い絵を残して政権を去りたい。あと2ヶ月の間に米経済が崩れることがあれば、選挙結果に影響を与える。それは何としても避けたい。だから圧力をかけた。その可能性は十分に考えられる。

そして、その証拠となるニュースが出てきた。

バイデン現大統領が、「FRBの独立性は極めて重要であり、大統領就任以来、FRB議長と一度も話をしたことはない」と声明を発表した。が、その直後、バイデン大統領がパウエル議長と会談する映像がSNSで出回った。嘘をついたことがバレてしまった。

わざわざ声明を発表したことで、逆に疑念を高めてしまった。政府の圧力があったのであれば、「解せない大幅利下げ」も、苦しい感じの会見も、解せるものになる。

もう一つ、政府の圧力があった可能性を示唆する事実がある。それは、政府債務のロールオーバー(国債が満期を迎えて、新規国債を発行する。すなわち、債務の借り換え)が2024年に相当量あるということ。

新発国債の利回りは、政策金利の影響を受けるので、少しでも利下げが大幅になされていれば、政府の財務状況を救うことになる。

トランプ氏とハリス氏の見解

大統領選挙候補者の二人はどう言っているかというと、以下のような見解を発表している。

ハリス氏は、利下げは歓迎すべきニュース
トランプ氏は、大幅利下げは米経済の危機を示唆している

トランプ氏は、その後も爆弾を仕掛けられたり(未確認)、薬物をばら撒かれて後ろにいた人たちが倒れたり(未確認)と、物騒なニュースが後を経たない。

何としても、トランプ氏の当選を阻止したい勢力がいるようだ。

これらを総合的に考えると、今回の利下げの決定に、政府からの圧力があった可能性は払拭する方が難しい。

今後の見通しと投資戦略

ここまでの、ご読了ありがとうございました。
長く市場を見てきていますが、ここまで利下げ幅が読めないFOMCは初めてのことでした。今後も、特に大統領選が終わるまでは、「こんなこと今までに体験したことがない」といったことが頻発してくると思われます。

まずは、そういった前代未聞の数ヶ月に突入したという自覚を持って、何があっても驚かないこと、特に、心を恐怖と不安に支配されず、毎日を平和な気持ちで過ごすことがとても重要です。

経済はトップが動かすもので、私たちは何もできないと考えがちですが、世の中を動かしているのは、実は私たちの集合意識です。集合意識を作っているのは、私たちの想念です。

自分の価値観に沿って、受け取っているものをスルーすることなく、しっかり認識し、感謝をして、毎日を丁寧に生きる。そのあり方の上に、資産形成戦略も、

『何があってもダウンサイドリスク(損失)が最小限に抑えられる戦略』

を取っていくことが、これまで以上に重要になると考えます。

金融危機以降は、右肩上がりだったので、正直、何に投資をしていても、どんなやり方でやっていても、なんなら、持っているだけでも、ある程度資産は作れました。

ですが、これからは、不確実性がここからさらに高まっていくので、自分のポートフォリオをしっかり『守り』の戦略に転換していけるかどうかで、明暗が分かれていきます。

ウオーレン・バレットの投資にあたっての教訓、

1. 損をしないこと
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しっかり、守りのポートフォリオ・マネジメントを行っていきましょう。

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幻冬舎さんのTHE GOLD ONLINEで連載されている拙著の記事ですが、今日の第7回は、なんと、トップ記事として紹介されていました。それだけ、内容の重要性が認められたものと、嬉しく受け止めています。

こちらも、チェックしてみてください。

(日が経って見ていただいた方は、トップが変わっていると思いますので、
その際は、以下のそれぞれの記事をクリックしてください)

高衣紗彩

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