こんにちは!ミッション・ミッケ人生デザイン研究所、研究員の斉藤です。
皆さんは、「フィデューシャリー・デューティー」という言葉をご存知でしょうか?最近、金融機関の内部ではこの話で持ちきりです。毎週日曜日に発売される、日経ヴェリタス第456号(2016年12月4日発行分)の1面でも記事の中で取り上げられていました。
今週は4ページにわたり、投資信託の特集を組んで、個人投資家にとって非常に有益な情報提供をしています。記事には「金融庁が受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)の名の下、金融商品の開発や販売を、顧客本位で進めるように求めている」と文末に掲載されています。
改めてフィディーシャリー・デューティーなんて言葉を使わなくても、顧客第一主義みたいな理念は、どの業界でも言われる事で、「何を今更?」「建前でしょ」とスルーしている人も多いと思います。
しかし政府が本腰を入れて取り組んでおり、金融機関の在り方を根底から変えるとの記事も目にします。
金融機関を利用する私たちにとっては、どのような影響があるのでしょうか?
フィデューシャリー・デューティーとは冒頭のヴェリタスにもあったように、「受託者責任」と訳されます。日本では新しい概念として金融庁が「平成26年度金融モニタリング基本方針」の中で導入しました。欧米では古くから確立されている概念のようです。
「信認を受けて、資産を受託した金融機関は、委託した顧客に対して責任を負う」というもので、預けた人の利益を最大化する事を最優先に考えて、利益に反する行動はとってはならないという事です。
その内容は資産運用・管理といった資産運用業界に限ったものではなく、商品開発、販売をも含んだものとなっており、金融機関全体に対し顧客視点に立ったサービスの提供を示しています。
そして今年6月2日に閣議決定された『日本再興戦略2016』の中では、成長戦略の一つとして「活力ある金融・資本市場の実現」を謳っています。その具体策として、「フィデューシャリー・デューティーの徹底を図ることとし、これにより、国民の安定的な資産形成への貢献を促す。」明記しています。
「顧客本位の業務運営」という事に尽きると思いますが、政府がそこまで言うのには理由があります。日本の金融機関は、真面目で堅いイメージこそありますが、実態は顧客本位にはなっていないという事なのです。
ちなみに、フィデューシャリー・デューティーの他にも、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンスなどの、馴染みの薄いカタカナ言葉を、金融行政で多用するのには理由があります。
「東京証券取引所第1部の売買金額をみると、海外投資家の比率は直近では73%にのぼり、彼らに透明性や公平性を理解してもらい、活発な投資を呼び込む為には、共通言語を使う方が効果的」との金融庁幹部の発言が日経新聞に載っていました。
手数料収入という目先の利益を追求するあまり、顧客本位になっていない。監督官庁からそのような烙印を押された金融機関の、銀行・証券・保険の3業界では激震が走っています。
金融庁長官も、顧客のニーズではなく、金融機関自体の実入りが多い商品を勧める姿勢が、国民の不信感を招き、投資から遠ざけているという問題意識を抱いている中で「平成27年事務年度金融行政方針」が出されました。
その中で、フィデューシャリー・デューティーを、最も重要なキーワードの一つとして位置づけ、金融商品の回転売買や、不透明な手数料体系などにも警鐘を鳴らしています。そして真に顧客のためになる、質の高い金融商品・サービスの提供により、顧客の安定的な資産形成に資することを要請しています。
こうして投資信託の信託報酬の値下げ競争や、保険会社の手数料開示などが進んでいます。銀行が、自社グループの投資信託を当たり前に薦める事も、個人向け国債を買いたいという高齢者に、半ば強引に手数料の高い投信を販売する事も控える傾向にあります。明らかに金融庁の目を意識しています。
しかしフィデューシャリー・デューティーは規制や法律ではありません。今までは、金融3社とも関連する法律を守る事で、顧客保護に資するとしてきました。しかしそれは、法律違反はしていないという事で、裁判などになっても金融機関自身を守る事になっていた部分もあります。
フィデューシャリー・デューティーは法を超えた倫理規範の確立を、金融機関による自主的な取り組みに求めています。各社がどれだけ本気度をもって取り組めるかが問われています。取り組み事例を毎月公開する企業も出てきました。
私も金融機関に勤める管理職として、この下半期は急遽フィデューシャリー・デューティーに関する研修や、会議などで召集される事が多くなり「真の顧客貢献」について意見を交わしています。
金融商品の一番の特性は、形を目で見たり、手に取って触る事も出来ずに、リスクを取引する商品であるという事だと身に沁みています。それだけに、売り手と買い手との間には、どんな商品よりも強い信頼関係が求められます。
その為には、金融機関が法律の規定を超えた努力をする一方、投資家も金融リテラシーを身につける事が必要だと、金融庁統括審議官の小野氏はインタビューで語っています。国が作成した小学生から高齢者まで最低限理解しておくべき、お金に関する知識を身につけるための「金融リテラシーマップ」というものがあるので一読を薦めています。
私も以前から日本の金融機関は、消費者のお金に関する無知の上に、成り立っていると感じていました。お金の事を学ばず社会人となる日本人に、啓蒙しないのはその方が都合が良かったのでしょう。
日本の工業製品を、世界一のクオリティを育てたのは消費者の目です。今まで金融商品はグローバル競争もなく、厳しい消費者の目にも鍛えられませんでした。甘やかされていたのです。
国民が金融リテラシーを身につけ、自身の投資哲学に基づいた資産形成戦略を持ち、金融機関にクレームやリクエストを伝えることが必要です。そして疑問に感じたら「それはフィデューシャリー・デューティーの観点から、どのような意味ですか?」と質問してください。
日本が中長期的に発展していく「好循環」の実現には、国民が資産形成において、金融市場を信頼して活用できる事が大事だと常日頃考えています。
アベノミクスの成長戦略にも盛り込まれたフィデューシャリー・デューティーは、以下のとおりです。
・受託者責任という顧客への責任
・法律ではなく金融機関が能動的に取り組む
・消費者の責任も大きい
私たち一人一人に資産形成の重要性が高まっています。投資への流れが促進され、成長分野にお金が流れる事が肝となります。その役目を担う金融機関の経営姿勢と、どのような形でフィデューシャリー・デューティーが実践されていくかに注目が必要です。
そして今年最後に、金融リテラシーを高めておきたい方はこちらが必見です。