「学問のすすめ」という本をご存知でしょうか?
” 天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず ” という一文から始まる福澤諭吉著者の大ベストセラーです。
きっと誰しも一度は耳にしたことのある書籍だと思います。
ですが、読んだことがあると言う方は、意外と少ないのではないでしょうか。
この本は、今でいう「エッセイ」のような短編集となっており、福澤諭吉がそのまま語りかけているような息づかいを感じることのできる一冊になっています。
一万円札の肖像にもなっている福澤諭吉という人がどんな人なのか?
書評という形でご紹介します。
目次
福澤諭吉(1835〜1901年)。中津(現在の大分県)藩士。
当時は、江戸幕府のもと、封建門閥制度の束縛の強い時代であり、福澤はそんな時代の硬直したムードを非常に嫌い、平等な社会を目指すべく、蘭学(オランダの学問)をはじめとした様々な学問を学びました。
欧米にも3度訪れる機会を得るなど、自由な思想・文化に触れたことが、福澤諭吉の人格形成や後の書籍執筆に大きな影響を与えました。
著述家、教育者、啓蒙思想家。慶應義塾の創設に力を尽くしました。
本書は、全17編からなる小冊子として出版され、全て合わせると340万部という大ベストセラーとなっています。
今回ご紹介するのは「学問のすすめ」を齋藤孝氏が現代語訳した「現代語版 学問のすすめ(ちくま書房)」です。
この本で福澤氏が伝えているのは「学問を学ぶ」ということを通して、「自立した国・人間になること」です。
外の世界を知り、日本人としてしっかりと自分の足で立つ「独立心」を身につけて欲しいという思いからこのような発信をしています。
当時の日本は鎖国が解かれ、急激に西洋の文化が押し寄せ、何も知らない日本人が増えてしまうと、独立国としての日本が危ぶまれるとの危機感を持っていたのですね。
では、福沢氏が伝えたかった「自立した国・人間になること」とはどういったことなのでしょうか?ポイントを絞ってお伝えしていきます。
「天は人の上に人を造らず〜」との通り、福澤氏は本書の中で人はみな同じ権理(権利)を持ち、生まれによる身分の上下はない。と述べています。
特に明治維新以降、平民も苗字を持ち、士農工商の位が同等となったことは日本はじまって以来のすばらしいことだと絶賛しています。
この考え方に基づき、男女間についても同じ人間であり、世に果たす役割が違うだけであって、男が必要でない日もないし、女が必要でない日もない。
それなのに女性は家の中での地位が低く、娘時代には両親にしたがい、嫁に行けば夫にしたがい、老いたら子にしたがわなければならない世の中はおかしい。
と鋭い意見を発信しています。
きっと、この本を読んだ多くの女性に勇気を与えたのでしょうね。
人はみな平等なのに、世界を見渡してみると賢い人、愚かな人や、貧しい人、豊かな人がいるのは何故なのでしょうか?
福澤氏は単に人生は学ぶか学ばないかによって後天的に別れてくるものだ。
と断言しています。
福澤氏が述べている「学ぶ」とは、ただ難しい本や和歌を読むのではなく、日常生活に役立つ学問を学ぶことを指しています。
当時であれば、そろばんや帳簿のつけ方などを「学ぶ」としており、自分の衣食住を豊かにするために能力つけることが重要であると伝えています。
また、そのように学問を行うことで知識が増え、結果的に社会的に地位が高くなり、豊かな人になっていく、学ばなければ貧乏で地位の低い人になる、と説いています。
更には、人にはそれぞれ才能があり、その才能を発揮するためにも学問を学び、人間性を養う必要がある、と述べられています。
誰一人として能力がない訳ではなく、人それぞれに才能がある。と断言しているところも福澤氏の視座の高さを伺うことができる重要な点だと考えます。
福澤氏は全篇を通して一貫して、学問を学び、日常生活に役立つ知識をつけ、一人ひとりが人間として独立することを提唱しています。
ここでいう独立とは以下の通りです。
”独立には二種類ある。一つは、形のあるもの。もう一つは形のないものである”
形のあるものとは、世の中の人々が自分の財産を持ち、仕事を持ち、社会的にも経済的も独立している状態のことを指しています。
一方、形のないものとは、精神の独立のことを指しています。
隣の家が車を買ったからうちも買いたい。
○○さんがブランド品を持っていたから私も欲しい。
と物が欲しい、何が欲しいと、人間が物によって支配されていることに対する違和感を持っています。
本来人間とは物によって支配されるのではなく、何を持つか、何を着るかを自分の意思によって分別できるものだと説いています。
そして分別した結果として、自分が働いた収入で貯蓄をしたり自己投資をして、人間性を高め、一人の人間としての独立性を高めるべきだと伝えています。
本書を読んで率直に感じた感想は大きく2点あります。
1点目は「福澤諭吉は毒舌だった」ということです。
例えば明治維新前の国内については以下のようにバッサリ斬っています。
”「鎖国」やら「攘夷」などとうるさく言っていた者もいるが、たいへん狭いものの見方であり、ことざわに言う「井の中の蛙」のようなものだ。”
このように自分の意見をストレートに発信する福澤氏ですが、言葉の端々に使命感や愛を感じとることができます。
人から何を言われたらどうしよう。
といった迷いがなく、正に「独立」した人間そのものであって、とても魅力的だと感じました。
2点目は「視野、視点が広い」ことです。
120年後に生きている現代の私たちが読んでも「なるほど」と思う着眼点で世の中を見て、そして論評する力がある。
ただ生きるだけではなく、学問を学んでそれを伝えていき、1人ひとりが独立した人間となり、国家を形成していく。
福澤氏の目指した独立には、弊所研究所が推進する「人生デザイン」の基礎となる考え方が散りばめられていると考えます。
「自分にとって何が幸せで、何がどうなったら成功なのか?」
この質問に対して、一人ひとりが答えを持ち、その答えに向かう人生に自分でデザインしていく。
そうすることで個人が独立した上で、お互いに支え合い、豊かで幸せな人生が送れるのだと思います。
福澤氏が説いている「独立」は、正に人生デザインそのものですね。
本書内には福澤氏の毒舌な文章や、その言葉の裏にある危機感や愛情が散りばめられています。
ご紹介した他にも「国をリードする人材とは」「人生設計の技術」など17編に別れて記載されていますので、自分の読みたい章から読み進めることも可能です。
気になる方はぜひチェックしてみてください!